sungenのイラスト練習ブログ

デジ絵練習や小説関連のブログです。オリジナルWeb小説のイラストなど。二次絵は刀剣乱舞がメイン。




☆JACK+③④話お試し掲載【オリジナル小説】

どもです。プリンタが保証で修理できそうなので、戻ってくるまで小説を最新話?くらいまで試し掲載をしようと思います。

いや良かったー。ダメだったら買い換えますが、やっぱ壊れやすい物は近場で買うのが一番ですね。修理は2週間くらいかかるそうです。その間、2話ずつやってどこまで載せられるかな?最新話まで追いつけると良いですね。ちょっとやってみよう。

なろう版

JACK+ グローバルネットワークへの反抗 (レジェンドチームⅠ)

sungen2.hateblo.jp

さて皆様。

今回の話は、登場人物紹介なんて読まなくても↓メイン四人が分かってたら読めます。

20170817212904

ベス(クイーン)、速水朔(ジャック)、ノア(エース)、レオン(キング)

 

と言うかこのシリーズはこの四人を覚えたらあとは「今日もモブが騒いでるな…」くらいで大丈夫です。

JACK+はひたすらこの四人がメイン。飽きられてもこの四人がメイン。こいつらの生活日記みたいな感じ。(と言うと身も蓋も無い(^^;))

あだ名はトランプになぞらえてます超簡単。女性はベスのみ。本名はエリザベス。

あーレオンの髪型いつになったらカッコ良く変えられるんだろう。またやろう…OTL

シリーズ全体を通してダンス描写はとても残念ですが、完結後にまとめて大加筆・修正する予定なので…うん。今は雰囲気で読んでおいて下さい。

 

 

  ※今回数字と漢数字がまざってます。

1000ポイントとか700とか、漢数字だと分かりにくいかなと思ってそうしたんですが、他が一月、一階とかなので微妙かも。

ちなみにポイントは1000以上も取れます。

(今、旧ブログ版を読み返したら、文字サイズをたまに変えてありました。そうだっけ?そのまま載せます)

 

第3話

20160110162222

【本文字数 11594文字】

JACK+ ③ 自決(前編)

 


『何で、真面目にやらないんだ!』
『かわいそうに』


速水はアラーム音で目を覚ました。
「ハァ」
目が覚めると同時に、溜息を付く。

今日は木曜日だ。

今、この世界が現実。これはこれで気が重たい。
しばらくすると隣のベッドで、レオンが目を覚ました。アラームを止める。

速水はあきらめて起き上がる。薬は抜け、体の調子は良いようだ。
「おはよう。ハヤミ。調子はどうだ?」
レオンはもう着替え始めている。
「普通。そう言えば、着替えってどうしてる?貰えるのか?」
速水は聞き忘れていた事を聞いた。
昨日はとりあえずレオンの服を借りて寝た。
「ああ。そのうち世話役が勝手に見繕って持ってくる。ダンサーがダサくちゃ駄目だって方針みたいだ。踊ってると、ズボンも靴もすぐ悪くなるからな…」

聞きながら、速水はとりあえず昨日の服を着た。

「さあ、行くぞ。初め慣れないと思うが、まあがんばれよ」
そんな会話もそこそこに、二人は部屋を出た。

部屋の外には、白い廊下が続いていた。片側に幾つかの部屋がある。
天井に電灯が埋め込まれていて、窓は無い。
ぞろぞろと、部屋から人が出て来る。
他の部屋は…何故かどこも一人部屋のようだった。危険回避のためだろう。
明らかに、精神的にやばそうな奴が何人かいる。

「あら、新入り?」「キャシー」
速水を見て声を掛けたのは女だった。レオンが答える、愛称はキャシーと言うらしい。

速水は特に言う事もないので一別しただけだった。女性は肩をすくめた。
「人見知りか?」
レオンが言う。
「別に」
速水はそれだけ言った。


角を曲がり、そこにあった階段を上がる。
便宜上の二階は硝子張りの部屋があって、トレーニングジムのような感じだった。
「サク・ハヤミ」
入るなり、名を呼ばれた。
速水はそちらを見て――ぎょっとした。

「エリックと申します。私があなたの世話係です。以後お見知り置きを」
…何でパンストを被っているのだ、この男は!

「エリック、今日も決まってるな!」
レオンは、ガタイの良い男の『スーツ』を褒めたが…、もっと別に言うとがあると思う。それとも慣れか。エリックは元々は端正な顔立ちだとは思うが…金髪がつぶれている。

「ええ。どうも。レオン。ハヤミ。カードをここにかざして下さい」
速水はレオンに言われて持って来ていたカードを、機械にかざした。
これで電源が入る仕組みらしい。
「走りながら目を通して下さい。今日のあなたのスケジュールです」

仕方無いので言われた通り、速水は走りながら書類に目を通した。
この後の移動経路などが書かれていた。

設定は十キロ、走り出すと数字が減っていく仕組みのようだ。
ランニングマシンは二十ほどあり、マシンの間隔はやや空いている。
隣同士、声を上げて雑談している者もいれば、付属のイヤホンで音楽を聴いている者もいる。

個別ワークと、複数、全体ワーク。
「一つステップが終わるごとに、書かれた番号の部屋へ移動して下さい。食事は一日三回。最上階のカフェテリアで。指定時間が過ぎた場合は片付けられます」
「ん」
朝食は二十分、昼食は三十分。夕食は一時間…。
今日、速水はすべて個別ワークだった。

「各スペースに内線がありますので、ご用の際はそちらを。総合に繋がるのでエリックを出せこの豚野郎と言って下さい」
「わかった」
速水は普通に呼び出すと決めた。
「冗談の通じない方ですね。では私はこれで」
エリックは去って行った。

速水は書類をとりあえずメーターの上に置いて、ひたすら走った。
あまり体力を使うのもどうかと思ったので、ペースは上げない。

「ふう。じゃあお先に行くね」「がんばってね」
ノアとベスが同じタイミングで走り終え。
「まあ、始めだしな。先食ってる」
レオンも去って行った。

「ふう…」
ようやく速水が走り終えた頃、まだ5名が残っていた。
速水よりかなり年下の子供、男性、老人。明らかに様子のおかしい者。暗い顔の女性。
速水はそこを立ち去った。

最上階は、意外にも自然光にあふれた広いスペースだった。
周囲は硝子張りで森の中だ。速水は地上の光を久々に見た。

…この建物はやはり地下がやたら深い。そして横にも広い。
マップを貰って驚いたが、地下五階まである。

一番下、便宜上の一階があのビジネスホテルのような部屋。
その上の二階A室がランニングルーム。隣にはB室と書かれている。
その他の階には残りのCから順にアルファベットがついた小部屋が幾もある。部屋の説明は無い。

が。四階の五つの大小の部屋が、ペナルティルーム…懲罰室だというのはしっかりと書かれている。
そして最も地上に近い階には何も書かれていない。運営のオフィスかもしれない。

「お、来た。どうだった」
レオンが言った。
「疲れた」
エレベーターを降りた速水は正直に言った。
…ジャックに言われてランニングはしていたが、十キロは走らない。
「大丈夫?」「あ、朝食はそこから一つ取って」
ノアとベスに言われ。
「さあ」
とノアに答えながら、速水はトレーを取って、ノア、ベス、レオン。それと少し離れてキャシーが付いた長いテーブルに座った。
テーブルは、二十人掛けが三つ。

「キャシーだっけ。よろしく。――頂きます」
言って、とりあえず時間も無いので、速水は手を合わせてから食べ始めた。
サンドイッチ、ジュース、オレンジ。
「無愛想なのね」
キャシーは苦笑した。
「ほら、日本人だし、シャイなのさ。ああ、スポーツドリンク、毎日一本貰えるから貰って来いよ」
レオンが言う。移動時や、ワーク中の休憩時間なら、飲んでも良いらしい。

「レオン」
速水が立ち上がり、口を開いた。
「ん?」
「先に言っとく。もしペナルティになったらゴメン」
速水は正直危ぶんでいた。
日本人である速水は射撃なんてした事無いし、ダンスレッスンに関しては、未知数。
「まあ…、今日は軽い方だし、いや、うーん、…まあ頑張ってくれ…」
レオンは複雑そうな顔をした。

冷蔵庫からドリンクを取って戻る。良く冷えている。

「メニューにもよるんじゃない?ハヤミちょっと見せて」
ノアが脇に置いてあった書類をめくった。
「この、B-10って何だ?」
読んでも分からなかったので速水は尋ねた。
「うわ。お前そっからか…、やばいな」

レオンが言うには、アルファベットはダンスレッスンの種類で、Bはブレイクダンス。頭文字が合っているのは偶然らしい。
射撃はそのまま英語で書かれ、その後ろに1とある。
1から始まって、レオンが今15。そして15が最高ランク。

「得点が700ポイントでクリア。1000ポイントでランクアップ。クリア出来ないと、ペナルティで、一つランクが下がる」
「あ、そろそろ移動しないと」
ノアとベスが、レオンも席を立つ。

「B-10って事は、あなたプロ?」
キャシーが聞いて来た。
速水は少し考えた。
自分が出た大会と言える物は、ジャックと出た物だけだ。
翌年のソロでの準優勝は、運が味方したか、お情けか。
PVには出たが、相手はジャックの友人だし、スポーツメーカーとの契約も、次の仕事の打ち合わせも、誘拐されすっぽかしてしまったし…。
…まだプロと言うほどの活動もしていない。彼はそう思った。

「そのうち、なりたいって思う」
「あら。アマなの?」
速水は勘違いを引き起こし、最上階を後にした。

■ ■ ■

「いいか貴様!!銃口は絶対にこちらに向けるなよ!!!」

このトレーナーは、軍服を着て、強盗よろしく、目出し帽を被っている。
「…イエス、サー」
速水は返事をした。殴られた頰が痛い。
自動拳銃の仕組みと、装弾と構えをスパルタで教わり、言われた通りにヘッドセッドをして安全装置をいじったら、変な方向に弾が飛び出し。いきなり殴られた。

「いいか、打つときは、胸を狙え!外れても致命傷が狙える!」
「…イエス、サー」

ダンサーに拳銃が必要なのだろうか。誰に致命傷を与えるのだろう。

そんな疑問を抱きつつ、速水はひたすら標的の紙人形を撃った。
ポイントは胴体が10、頭が5。その他が2。外れるとゼロ。大雑把な初心者用だった。

「時間だ。止め、…708か。ギリギリだが、良いだろう!」
ばきっと意味なく腹を殴られた。

速水は部屋を出た。
「ハア」
カードをしまい、速水は溜息を付く。15は市街戦でもやらされるのかも知れない。
だがアメリカは銃社会だし、これは覚えて損は無いだろう。
次は問題のダンスだった。

そしてその後、ランニング十キロだ。

■ ■ ■

レオンは走っていた。今日のワークはこれで終わりだ。

平常時ならこの程度だが、大会が近づけば、ステージ用のAワークに切り替わる。
「よし、終わりっと」
十キロを走り終え、フィニッシュカウンターの端末にカードをかざす。
画面にクリアと表示され、チョコレートが下から出て来る。
レオンはチョコを取り出した。
「そういえば、ハヤミは?」「あら?」
少し遅れて走り終えたノアが言った。ベスも気が付く。

「…、やばっ」
すっかり忘れていたレオンは青ざめた。
速水の朝のペースを見ていたが、そろそろ始めないと間に合わない。
それに、どこかで落第を貰っていたら…、即ペナルティだ。
ダンスが出来ても、拳銃とか、日本人は使ったことがないだろう。

「あ、来た!」
ノアが言った。
「ごめん!レオン!!」
入って来るなり、速水は謝った。慌ててカードをかざして走り始める。
レオンは帰るどころでは無い。

「どうだったの?」
ベスが聞いた。
「全然駄目だった。なんだよアレ。…点取れない。ジャッジおかしいだろ」
暗い顔で走りつつ速水は言った。
「お前…!!っ」
レオンが、速水が乗ったランニングマシンの手すりを掴む。

「あーあー、グッドラック。じゃ俺達は行こうか」
「頑張ってってね。ハヤミ」
ノアとベスは去って行った。


「はぁっ…、はぁっ…!…はぁっ…」
速水は何とか時間内に走り終え、マシンの上に膝をついた。
汗だくになっている。

根性はあるようだ。
…レオンは、もう今回は仕方が無いと思った。
「カード。そこのカウンターに」
溜息をついて言った。
「あ、っそうだ…ハァ」
速水は何とか立ち上がり、カードを機械にかざす。

「で、ペナルティか」
ペナルティ、と画面に表示された。
「…覚悟は出来た。…悪い。どこでやるんだ?」
速水の表情は硬い。
「四階のペナルティルーム。九時過ぎたら紙袋が呼びに来る」
レオンは言った。

「お前、何点とった?」
「539。コツが掴めなくて…っていうか、何だよ、あの重り…」

指定された部屋は、床はブレイクダンス仕様、壁はコンクリート打ちっ放しの部屋だった。
トレーナーは居ない。
機械のそばには、年季の入ったグローブと帽子が用意されていた。必要だったら使って良いらしい。
速水はとりあえずカードを通し、機械の音声指示に従って、重りと測定器を身に付けた。
両手両足に五キロずつ。
「こんなんで踊れるのかよ…」
若干、ぶつくさ言いながら。

ワーク『B-10』はパワームーブ。
ブレイクダンスの指定された技を、ひたすら繰り返すと言う物だった。

ヘッドスピン系から始まり。
『次、グライド 次、エッグ、レイダー、コークスクリュー
淡々と機械が告げる。
速水はその通りに踊る。
『次、ハンドグライダー、タートル、UFO、クリケット、ジャックハンマー』
機械に従い、速水は踊った。
『次、ウインドミル、ノーハンド、カフス。NOもう一度。加点発生。カフス減点』
『次、トリプルへイロー、エルボーエアー…』

いくつかの技を続けて踊ると、機械にOK、NOと言われ、もう一度初めからと言われ、よく分からないまま加点、減点、減点、それを繰り返し。
繰り返し―と言っても、それが半端でない。
一時間、二時間、十分休憩、三時間、四時間。十分休憩、五時間、六時間―。

時間が過ぎ、そして。
539――合格基準に達しません。ペナルティが発生します―そう言われたのだった。
そして時刻は八時。ギリギリだった。
呆然としたが、とにかくその部屋を出た。

「あれは、コツがあるんだよ…、言っとけば良かった」
「半分過ぎたあたりで気づいた。しまった…」
いつもの速さで踊ったが、もっと、技自体をしっかり見せるべきだったのだ。

速水は座り込んでドリンクを飲んみながら、後悔していた。
…超スパルタなジャックの指導であれくらい踊り続ける事はあったし、体力は何とか問題無いはずだった。だがジャッジの癖を読むのに手間取った結果、点数が足りなかった…。
次回はミスらないようにしなければ。次があればだが。

一方レオンは舌打ちした。
「運営の奴ら、何考えてるんだ。トレーナーが居なかった?普通、説明があるはずだし、そもそもいきなり10からとか…。こうなったら、あの手だな」
「あの手?」
レオンは内線を取った。

「おい、エリックを出せこの豚野郎!!」
…こういう時に使うのか。

「エリック、今すぐナイフもって来い!二本だ。ハヤミがペナルティ喰らった」
レオンがそう言って、速水は驚いてそちらを見た。
「―ナイフ?」
「ペナルティの奴らを全員倒せば、とりあえず生き残れる」
「…」
何だ、それ。速水は呆れた。

「…コレ、俺たち四人しか使えない手だから。だから皆、この地位を狙ってる」
「はぁ…。お前、ナイフできるのか?俺は無理」
「…まあ、振り回せば何とか。ワークに銃はあるけど、ナイフは無い。それにしても、連中遅いな。チッ…準備に時間かけてやがる」
レオンは忌々しげだ。
速水は、何の準備か聞きたくなかった。…短い人生だった。

「お持ちいたしました」
エリックが天使に見える。明日からはスーツを褒めよう。
「ありがとう…。助かる」
速水はシースに入ったそれを受け取った。
ダンサーになるには、ナイフも練習しなければいけない。…彼はそう思った。

「来た」
足音が聞こえる。
…、軍服紙袋が二人、…と、意外にも、スーツ姿の女性が一人。
彼女は黒髪を後ろで団子にきっちりと纏め、赤い仮面で目を覆っている。白い肌に赤い口紅が目立つ。

「来い」
軍服紙袋に促され速水は立ち上がった。
「ん?」
同じくなレオンは首を傾げていた。

■ ■ ■


「…あいつら、絶対殺す!!」
部屋に戻った速水は、怒っていた。椅子を思い切り蹴飛ばす。
そしてベッドに倒れ込んで何かうめく。

「あ、お帰り」「…大丈夫だった?」
しばらくして、ノアとベスが入って来た。
そして倒れた椅子を見つけ、速水の唸り声を聞く。
「わぁ、荒れてるね」「でも、意外に早かったじゃない。一晩かかると思ったのに」
時刻は、十半時過ぎ。
「お前等、暇だな。寝なくて良いのか」
レオンが表情を和らげて聞いた。
「そろそろ寝ようかって思ったら、帰って来たから」
この二人は、それなりに速水を心配していたのだろう。

「で、どうだった!?何人にヤられた!?」
――と言う訳でも無かったらしい。ノアが速水に聞いた。
「ノア。お前も殺す」
速水は低い声で宣言した。

「それが、ほぼ裸で」
「レオン。言ったら殺す」
速水がレオンを睨んだ。

「―、裸で?」
ノアが首を傾げる。
「良いじゃ無いか。あれくらいなら。ほら、ナッツクラッカーを―」
「…そこまで馬鹿だと、早死にするぞ」
速水はレオンに唸った。

ノアとベスが、顔を見合わせた。
「あれ…?」「踊っただけ?」
「サラが来たんだ。で契約書に罰則規定が付いてるから、今日は代わりに踊れってさ。俺まで危ないかと思って、…生きた心地がしなかったぜ」
レオンが言った。


懲罰室で…レオンと速水は、十名ほどの軍服紙袋に取り囲まれていた。
これは、多勢に無勢か―。
と、二人が観念しかけたところ。
レオンがサラと言ったスーツの女性が、罰則規定なる物を読み上げた。
『契約書によりますと、サク・ハヤミに対する性的ペナルティは禁止されています』

大ブーイングだった。

『静粛に!平和的な協議の結果、今回のペナルティは――』


速水はその後を思いだし、悪態を付いた。

「―だから、俺は契約書も何も知らない!来たくて来たわけでも無いんだ!あの====!どもめ!!」
感情のままに言って、さらに酷い悪態を吐いた。
「でもやっぱり、ハヤミの推薦者って、凄い上のメンバーなんだね。うらやましいな…」
それを無視してノアが言った。
「そんな力があるって…誰なのかしら?それに契約書、貰えなかったの?普通コピーが貰えるのに」
ベスは不思議そうだ。
「―俺の推薦者は誰だ、契約書見せろ!!ってコイツが怒ったんだけど、教えるのは禁止されています、だとさ」
レオンが肩をすくめた。

「それで、サラが明日、朝、緊急ミィーテイングを開くってさ。ノアの所のトレーナーもいなかったってのは上が来たからとか?ハヤミを攫った事と言い…連中、そろそろヤバイと思ってるんじゃ無いか?」
「あー、確かに。ダイヤ成績悪いからね。切羽詰まってるのかー」

ドアがノックされる。
「エリックです」

「ああ…。ナイフか。レオン」
そう言えばナイフをまだ返していない。速水はレオンからも受け取る。
速水は重たすぎる体で何とか立ち上がろうとした。
しかしその前にエリックが入って来た。
「失礼致します。遅れましたが。こちら着替え、その他必需品です」
エリックは新品らしい着替えなどを段ボール箱に入れて、紙袋を片手に提げて持って来た。そして手早く開封し、クローゼットに収める。
靴、アクセ、シャツ。ベルト、靴下。サイズは速水に合っていそうだ。
そして黒色で大きめのポーチ。

速水がポーチを開けて見ると―その中にはカミソリや櫛。歯ブラシ、爪切りなどの細々とした物が入っていた。
どうやって調べたのか、勝手に部屋に入ったのか…速水が日本で使っていた物、それらの新品だ。
「足りなくなりましたら、こちらのメモに書いて、カフェテリアの投書箱にお入れ下さい」
メモとペンを渡された。日用品は運営がわざわざ買って来てくれるらしい。

ごそごそと、ポーチの中身を確認した速水は眉を潜めた。
「エリック、ちょっと良いか?レオン。先にシャワー浴びてくれ。ノアとベスはちょっと悪いけど…そのまま動くな」
だるそうに起き上がり、エリックと共に部屋の外へ出た。

ノアとベス、そしてレオンは首を傾げたが、何か足りない物があったのだろうと思い、気にしなかった。

「ねえ、レオン、それより―」
で始まるノア達の会話を速水は聞かなかったし、速水とリックの会話をノア達は聞かなかった。

「ありがとう、エリック…その、本当に助かる」
五分ほど経って、速水が部屋に戻って来た。

「何話してたんだ?」
風呂に入りそびれたらしいレオンが聞く。
「別に。あーもう、死にそう。汗ベタだ。やっぱり先に入っても良いか?」
速水は存外嬉しそうに伸びをし、明日絶対筋肉痛だよ、等と言っている。

「そう言えば、レオン」
速水はふと首を傾げた。

「いかにも薬やってそうな人が居たけど。何処で手に入れたんだ?そう見えただけか?」
「…」
レオンが眉を潜めた。
「速水って、頭悪いね」
ノアがそう言った。

「興味があるなら止めとけ」
レオンが聞いた。
「いや、そうじゃな…」
速水はさすがに、使う気など無い。

「手っ取り早く自殺して貰うために、運営が用意するんだ」
ノアがそう言った。

「…!」
速水は、ノアを見た。

「ベス、ええと、あの人、昔、ジャックに挑んで負けて…。踊れなくなったんだっけ?」
ノアがベスに聞いている。
「ええ。私は覚えてる」
ベスが頷いた。
「ジャックのせい…?」
速水は動揺した。

「…表では世界平和とか言ってるけど、そんなもの、私達には無意味よ。踊れる、踊れない、ここではそれだけが全て」
ベスの声は沈んでいる。

「と言っても、先々代だから、お前の知ってるジャックじゃ無い。彼を負けさせたジャックも、お前のジャックに負けたし。俺はその時いたから、知ってる。詳しく聞くか?」
レオンが、速水に聞いた。

「止めとく」
速水はそう言った。

それを見たノアは、不満そうだ。
「…この際だから言わせてもらうけど。ハヤミは本当にラッキーだったんだ。ペナルティでしかも、無傷で済むなんて。推薦者に感謝しろよ。今回は、レオンが庇ったって事にしておけば良いけど、他のメンバーにばれたら、殺されるよ?マジで。俺だって、代わりにヤりたいくらいムカついてるもん」

あー、面白い話が聞けると思ったのに。慣れると結構気持ち良いよ。

ノアはそう言い、速水に指を向けてベスによしなさいと窘められた。

「こら、ノア止せよ。まあ…と言っても、俺達はかなり優遇されてて、十番…キャシーとでも大違いなんだけどな」
レオンが明るく、またフォローになっていない馬鹿な事を言った。

そしてわざわざ、丁寧に速水に言って聞かせた。

――エースは例外だが、数字が下になるほど待遇は酷くなる。
そして皆、ワークで上のランクを目指すより、低いレベルで700点をキープする。
なぜならペナルティが恐いからだ。

だが惰性でやってると、いきなり落とされる。
ここにいる者は常に、自分の周囲との差を気にして、訓練に挑んでいる。
それだけ順位の入れ替え――降格が恐いのだ。

「まあ、勝負を挑んで、勝てば上に戻れるんだが―、って速水?」
速水はシャワールームに消えていた。

■ ■ ■

翌朝。
朝食前に、最上階でミーティングが開かれた。
速水もレオン達と共に席に着いた。

カフェテリアには、サラの他に、似たような格好の女性や男性が数名いる。
その周囲には、目出し帽、エリックその他のパンスト、紙袋がそろい踏みしている。

速水は昨日の服が洗濯中なので、エリックが持って来た服、キャップ、靴を身に付けていた。
ボトムも、トップも、靴も。キャップも真っ黒。あえて言うなら、少しだけ見えるタンクトップが赤。こういうテイストが好きだと思われたらしいが、別に速水は白だってグレーだって着る。

一番前のテーブル。左から、ノア、ベス、レオン、速水の順番だ。別にくっついて座っている訳では無い。
速水とレオンの間はひとつ空いている。また、反対側に三つ離れキャシーがいる。
他の者も適当に一つ目と二つ目のテーブルに分かれて座っている。
席は一つのテーブルで二十あるが、後ろを向くと、正面のホワイトボードが見えないからだ。
ホワイトボードは移動式の物が三台。
昨日は一つだけだったが、速水達が先ほどここに来たときには、すでにあと二台が運び込まれていた。

運営達が慌ただしく、三台のホワイトボードに紙を何枚も貼る。
グラフ、スケジュール表、成績表、etc…。

作業が終わり、サラが代表で口を開く。

「一月後、10月21日、『スペード』との交流戦が決まりました。その後、11月10日には『クラブ』、年明け1月10日には『ハート』と対戦します」
皆が、ざわついた。

『スペード』は、今一番成績の良いファミリーだ。
最下位の『ダイヤ』など歯牙に掛けないほど絶対的に強い。
…一体何故?と皆がささやき合う。

サラがバン!!とホワイトボードを叩く。
「世界平和の為に、我々、『ダイヤ』が覇権を握る必要があります。しかし!!」
別の男が言葉を引き継ぐ。
「しかし!!我々は永らく最下位に甘んじてきました―、これではいけない!!」
そしてまた別の女性が。
「よって、本日より、『フェスティバル』まで、特別ワークとなります。繰り返しますが全ては、世界平和の為に!!」

周囲の覆面、エリックその他の世話役、軍服紙袋を含め―、が世界平和の為に!!
と高らかに叫ぶ。

「ハァ…」
速水は呆れた。とんだカルト団体だ。

「サク・ハヤミ!!」

「!!?」

いきなりサラに指をさされ、速水はびくっとした。
まさか、溜息を付いたのがいけなかったのか?

「あなたには、交流戦までに、栄えある我らの『ジャック』として恥ずかしくない成績になって貰わねばなりません。よって本日から別メニュー、一月後、交流戦までに、四つのワークで、最低レベル7をおさめて下さい。―いいですね?」
「な…、」
速水は面食らった。

「世界平和の為に、やると誓って下さい。もし基準に達しない場合は、三段階降格となります」
「ちょ…」
降格の恐ろしさは、昨日聞いたばかりだ。
「―いいですね?」

いいですね、とさらに大合唱される。

「あちゃー…」
どうにも、逆らえない雰囲気だ、とレオンは思った。連中は本気らしい。
それにしても、入ったばかりの速水に…無茶苦茶な事を言う。
それだけ速水の才能を買っているのだろうが…昨日のワークの様子では厳しい。

そもそも、あの程度の話でひるむ子供には、ジャックの代わりなど出来ないだろう―。

「…分かった。ただし、条件がある」
隣からひどく低い声が聞こえ、レオンは耳を疑った。

それを聞いた運営がざわつく。条件?
「―なんでしょう。ハヤミ」
サラが代表で聞く。

「俺は、俺をここに勝手に連れて来たお前等を許していない。誘拐、監禁の上に、強制労働。これは立派な犯罪だ」

低く静かで、物騒な声だった。


「…だから一月後、俺が基準とやらに達したら、お前等が話せないと言った、俺の推薦者?そいつのフルネームを教えろ」

レオンは背筋がぞくりとした。

速水は推薦者を探し出して――殺す気だ。


「…それは禁止されています」
サラが答えた。
「なら、ニックネームでも構わないし、ヒントでもいい。今すぐ協議する気が無いなら、俺は即降格でいい。―どうなんだ?」
速水はあっさりとそう言った。

「おい!ハヤミ!!そんな事言って、本当に降格されたらどうする!?」
レオンが止めようとした。速水の左肩をつかむ。

「どうって?…、」
――微笑んでいる?いや、しのび笑い?

「…俺、ここが好きじゃない。だから居たって仕方無いだろ?」

「はぁ?」
言われ、レオンは思わず声を上げた。こいつ、狂ってる?

レオンの隣で、ベスがガタンと立ち上がった。
「ハヤミ!!何言ってるの?あなたやっぱり頭悪いの!?英語分かってる?降格しても良いなんて、レオンが説明したでしょ!?ジャックでないと、ここからは出られないのよ!!」
レオンを挟んで座る速水に、彼女らしからぬきつい声で言った。

速水はギロリと彼女を見た。
「ベス。俺は初め、さっさと出たいから、出来る限りのことはするつもりだった」
「…だったら!」
「運営に逆らうな?確かにそうだよな。それは分かってる」
苦笑してそう言った。

彼がうつむくと、キャップに表情が隠れる。
そして彼の目だけがどこかをみる。

「けど、ここじゃ自由に踊れない。それじゃ生きてる意味がない。なら薬漬けでも同じだ。――要するに、ここに嫌気が差したんだ」
「「なっ…」」
ベスとレオンは絶句した。

(嫌気が差した!!?いやお前そんなに居たか!?)
そこにいる全員がそう思った。

「ちょ!おい―ハヤミお前、まだ2日目だぞ!?何言ってんだ!せめて一週間は我慢しろよ!」
レオンは思わずそう言った。

正確に言えば、ワークしたのはたった1日。
彼は見た目こそクールだが、言ってることはただの我が儘だ。

「だって飽きたし、隼人がいつか心配するし。ダンスで世界平和とか、馬鹿だろ」
彼は心底めんどくさそうにそう言った。

隼人って誰だ。いつかって、いつだ!!―レオンは天を仰いだ。

「馬鹿はお前だ!ハヤミ―、もっとよく考えろ!いいか考えるってのはな、状況を良く吟味して冷静な判断を―」
レオンはひたすらなだめたが、速水はレオンを無視した。

「で、どうなんだ?」

サラは黙り込んだ。

…ベスの隣でノアがクツクツと笑っている。

「彼はやっぱりジャックだ」
ノアの声がフロアに響いた。


〈おわり〉

 

 

 

 

 

第5話

20160110162222

【本文字数 7977文字】

 

 

 

JACK+ ③ 自決(後編)

 


――平和的な協議の結果。

「良いでしょう。まず、今日は昨日落としたB-10に再挑戦、クリアして貰います。その後、C-1~F-1まで、今日中に2にランクアップして下さい。出来なかったらペナルティです」
サラから紙を渡される。殴り書きだった。
ランクアップ、つまりは1000点取れと言う事だ。
ムチャクチャだ、とレオンは頭を抱えた。

Cヒップホップ、Dウォーグ、Eハウス、Fロック。
確かに1は初歩と言えば初歩だが。クリアならともかく、いきなりどれも1000点はムチャクチャだ。そもそも時間が足りないのではないだろうか。

「明日からのメニューはまた作ります」
「分かった、ああ、そうだサラ―」
速水は二三の確認して、それを受け取った。

朝食後。早速、速水の別メニューが開始された。


―。


「…と、まあ、当然だな」
「…痛った…」
その日の終了後、速水とレオンは医務室にいた。

「まあ、なぜか俺はあまり殴られなかった訳だが…。お前ホントに馬鹿だな」
レオンはベッドの上で横になる速水を見て、深い溜息を付いた。
「落としたのは一つだから、また明日取る」
速水は呻きながらそう言った。
「お前な。スケジュール、明日も別のがあるんだぞ?リトライは来週だろ?」
「明日サラに頼む。でなきゃ、一月《ひとつき》で7までは行けない」

速水は予定表を受け取った時、サラに、必ず順番に回らないといけないのか?と確認していた。
そして、お好きな順でかまいませんと言われた。
さらに一日の予定を増やす事は出来るか?と聞き、連絡を直接したいとも言った。
彼女の返答はしぶしぶのイエス。内線を使って下さいと言われた。

妥協点としてはまあまあだと思う。
しかし彼はそれを口にはしなかった。

「お前な…」
レオンは舌打ちした。
「レオン。サラは多分、不可能なスケジュールは立てない。目標だってそうだ。7ってのが俺に出来ると踏んで言いつけたんだと思う。…今日はラストランも無かったし。時間もギリギリできるように調整されてた。…ミスしたのは俺」
「確かに、彼女はそういう感じだが…お前、本当にできるのか。体が持たないだろ」
レオンは言った。

今日は9月20日の金曜日で、明日は21日の土曜日だった。
明後日22日の日曜は安息日で休みだが…、それには土曜のあと一日乗り切らないといけない。

「ペナルティ、命までは取られないだろうから…、きついけど」
速水のペナルティはかなり加減されているようだった。
彼は今日も受けてみて、このくらいなら、吐きはするが死にはしない。そう思った。

「うっかり死ぬって事もあるぞ」
「その時は、寸前でレオンに助けて貰う。その為のナイフだろ」

速水は目を閉じた。

今日、速水は他の項目で1000点を取るため、出来そうなダンスをわざと一つ落とした。
落としたのはペナルティを見るためでもあったが…。
7まで行こうと思うなら、全てに全力で当たっていては、体力が持たないし、効率も悪い。
部屋に行くことさえしなかった。

彼が、即降格でも良いと思ったのは本当だ。
…こんなのは、馬鹿げている。

問題は、大会用メニューが割り込んできた時だが…それまでに幾つ取れるか…。
幾つペナルティを受ける事になるのか…。彼は溜息を付いた。

「俺もナイフ…、練習しないと。レオン、後頼んだ」
速水は思考を巡らせながら、意識を手放した。

■ ■ ■


そして問題の土曜。
速水とレオンはまたペナルティルームに居た。

速水は部屋の中心でまた正座をしている。

「ハァ…、お前なあ。土曜はヤバイ奴だから気をつけろって言っただろ…」
レオンはもう付き添いの保護者と言う感じだ。
「…悪い」
謝罪した。

口調はいつもと変わらないが、速水は完全に開き直ったようだ。
レオンにはそれが分かるようになった。

「ヤバイって、どんな―」
速水がレオンを見上げた時、カチカチャという軍靴の音が聞こえた。

「はじめまして!!」
「―」
なるほど、これはヤバイ。
何がヤバイって、全身くまなく、カラフルな入れ墨がある。前衛的な絵画のようだ。
服装はピンクの軍服で、目元を運営と同じデザインの仮面で隠している。小さなピンクの羽根付きベレー棒を被り…、胸元には何故か勲章がじゃらじゃら。手には鞭、腰にはでかいナイフ
…これに戦場で出くわしたら、間違いなく敵は逃げ出す。

そして今日は集団では無く、一人だけだった。

けど、こんなの相手に、どう生きろって言うんだ…。俺、ここで死ぬのか。
ああ、そういえばもうすぐ、隼人の誕生日だったな。メール送らないと、あいつ心配する。
速水は絶望した。現実逃避もした。

「遅くなってゴメンね、服が決まらなくって!!」
かすれた声で語尾を上げるように喋る。それだけで速水は全身に鳥肌が立った。

その後の彼の行動を見て、速水は自分の目を疑った。
彼が取り出したのは、コップ。それを床に置いて―。

「飲みなさい」
そう言った。

「―、いい大人が、馬鹿やってんじゃない!」

バシャッ!!と鋭い音がした。
「え?」
さすがのゲテモノも、瞬間、何が起きたか理解出来なかった。
速水は多分、ものすごく頭に来たのだ。
何をしたのかというと、間髪入れずにコップ手に取り、そいつに『中身』をぶっかけたのだ。

しかも、なぜか説教付きで。
一部始終を見ていたレオンは、あ、こいつ死んだ。と思った。

「がっ!」
案の定速水は腹を蹴り飛ばされ、壁に背を打ち付け、悶絶した。

レオンが駆け寄る間もなかった。カチカチカチカチと音がする。
ゲテモノが歯を鳴らしているのだ。速水の服を掴み、引き起こした。
「=====!!====!!====!!?」
ゲテモノはとんでもない大声でひたすら悪態を付いた。意味は分からない。
レオンの脳はスラングの解析を全力拒否した。が、やさしくすればつけあがりやがってこのがき!(意訳)だと肌で感じてしまった。

いけない事に、速水は目つきが悪い。
どでかいナイフがその目を映す―。

白刃が間一髪逸らされ、代わりに強烈な前蹴り、宙に浮く間もなく、一瞬で床に叩き伏せられる。まだ止まらない。軍靴が速水の頭を容赦無く踏みつけ、蹴飛ばし。首筋にナイフが振り下ろされ。
速水が跳ね起きてギリギリ避けるも、また蹴飛ばされ壁にぶつかり―。一瞬で鮮血が散る。
ゲテモノが字や絵を描くように、笑いながら、速水の体を切り裂いたのだ。

――やばい!!
「誰か!!早く来い!!あいつ殺されるぞ!!!」
レオンは懲罰室の受話器をもぎ取り、必死に叫んだ。

■ ■ ■

「おまえ、なんでそんな風なんだよ…」
またしても医務室で、レオンは頭を抱えた。

返事は無い。
結局受けてしまったナイフの傷や打撲は、エリックが手当してくれた。
怪我の治療は世話人の仕事でもあるので、彼は飛んで来た。
…肋骨が折れていなくて、良かったです。跡が残らないと良いですが…。
彼はそう言った。
ナイフの傷は深くは無いが―、悪趣味な腹いせだ。

だが、あれは速水も悪い。

ダンサーは身体が資本だというのに。あきれた話だ。
レオンはそう思った。

このままペナルティばかり受けていたら、体が持たないだろう。
…運営が性的ペナルティを採用しているのは、それが、暴力よりも体を壊さないからだとレオンは考えていた。
まあそれもキツイ事には変わりないが、運営は一応その道のプロを使っているし、ヤリ殺されるとこまではいかない。

速水はなぜかその性的ペナルティを免除されている。これはノアの言う通りラッキーだ。しかし、このままだとその分早く身体が壊れる。

実際、きつそうに見える。
それでもいちいち運営に逆らうのを止めないのは、無謀もしくは馬鹿としか言いようが無い。
特に今日はまずかった。あの説教とか意味不明だし。

「はぁ…」
レオンはまた溜息をついた。

速水が一体どんな奴なのか、レオンには全く理解出来なかった。
直ぐ切れるし、短気だし、我が儘で、馬鹿だ。

こいつがジャックだって?俺、このガキと組むのかよ。
足手まといになられちゃ困る。

レオンは内心ずっとそう思っていた。
まだ三日程度の付き合いと言えばそれまでだが…、レオンはこの先も速水と組める気がしない。背中を預けるには、速水はあまりにも頼りない。

速水が特別に馬鹿なのだろうか。それとも?

「それともジャパニーズってのは、みんなこうなのか?…ハァ」

それでも彼はそこを離れなかった。

■ ■ ■


そして日曜日。
「…ハァ」
カフェテラスで、レオンは溜息を付いていた。

レオンにとっては、待ちに待った安息日
カフェテラスで、ゆっくり誰にも邪魔されずに、珈琲でも飲みながら、朝食でも。
速水はまだ部屋だった。

つい先程。部屋にノアとベスが来た。
この二人は、速水がまたペナルティを喰らったと聞いて、朝食前に様子を見に来たのだ。

そこで心底くたびれた様子のレオンを見たベスが、「ノアと先に行って。起きたら連れてくから」と言った。ノアは速水にかまうなと言ったが、我が儘言わないの、と彼女にキス付きで窘められた。
「ノア。行くぞ」「…」
ベスのおかげでレオンは、やっと速水のお守りから解放された。
しかし、そうそう上手くは行かないようだ――。


「完璧に…速水のせいだね。俺、言ってくる」
レオンの隣でノアが言った。ベスが速水についているので、辛辣だ。
身を翻し出て行く。

レオンも同意見だった。

カフェテラスの移動式ホワイトボード三枚、…これは交流戦まで置かれたままになるようだが…三枚、三台か?とにかくそれの真ん中のやつ―。

その中心に、久々の『欠番表』が張り出されていた。

■ ■ ■

欠番表はすぐには張り出されない。
ミサを行う日曜を待って張り出される。

「ハヤミ!起きてる?」
ノアが部屋に入ってきた。
速水は起きていた。
テーブルに着いて、朝食ついでに出すのか、エリックへのメモに何かを書いている。
ノアは簡易キッチンのあたりに居たベスを無視し、まっすぐに速水の方へと詰め寄った。

「ノア?」
速水は首を傾げた。
「この、人殺しの最低野郎!!」
突然ノアが速水に叫ぶ。
「ノア、何!?いきなり」
ベスが近寄ってくる。

「…欠番だ!!」
ノアは速水の襟首を掴み、ベスに向かって叫んだ。

「それも、二人!お前のせいだ!!」

「欠番…?二人?」
速水が呟く、空きが出来たと言う事は。まさか?

「――自殺だよ!!」

「…!!」
ノアの言葉に、ベスが絶句する。

「…っそんなっ、自殺!!?」
ベスがノアに詰めよる。
自殺は、クリスチャンにとっては、絶対にしてはならない事だ。
「…!?自殺?…俺のせい?」
速水はノアから見れば、何も理解していない顔で聞き返した。

速水は状況を理解しようとしていた。
欠番。すなわち死亡。――金曜のミーティングの時は、全員そろっていた。土曜もおそらくいたはずだ。
ベスは食事前にこちらに来たため、知らなかったようだ。
どういう仕組みで死が報告がされるのか、速水はそれを聞こうとした。
「この馬鹿!!」「がっ!!」
その前にノアが速水の顔を全力で殴り、速水は椅子から転げ落ちた。
「ノア!!止めて!」
ベスがまた殴ろうとするノアを止める。

「自殺…?」
頰を抑え、速水はその言葉を反芻した。

ノアは興奮し、激昂し、速水を指を差した。
「お前はここがどんな所か、全然分かってない!!…っ今朝と、あのミーティングの後だって、アメリアとキャシーが言ってた。死んだのはレイと、お前が言った、薬付けの男、トーマスだ!アメリアは泣いてた!!」

レイと言うのは最年長の老人。
アメリアというのは、その老人の孫で速水が、いる、とだけ認識していた子供だった。
そしてトーマスは、かつてジャックに負けた男。
「金曜…ラストにトーマスが居なくても、誰も気にしてなかったけど…」
ノアがチッと舌打ちする。トーマスが遅いのはもういつもの事だった。
単に薬で死んだのかもしれない。見た者はいないのだ。しかし。

「レイが死んだって…?しかも自殺?どう考えても、お前のせいだよ…!!」
ノアは肩を振るわせた。
レイは自殺した、そうアメリアが言っていた。

速水は、ノアを見上げた。
速水は戦力外であろう彼等を、完璧に意識の外に追いやっていた…。

「夕飯で、ミサをするけど、お前は来るな。本当はやっちゃいけないけど、俺たちはファミリーだ。ベス、行くよ!」
ノアが吐き捨て、先に部屋を出て行った。

「…」
速水は呆然としていた。

「あなたが悪いわ。私だって、皆だって、ここで必死に生きてるのよ。悪気は無かったのは分かるけど…」
ベスが静かに言った。ベスはノアを追い部屋を出た。

■ ■ ■

残された速水はベッドに腰掛けた。
そしてひたすら自問をする。答えなんて分からない。


間違いなく、確かに、俺のせいだ。でも。

ファミリー…。
だったら、なぜ、もっと早く助けてやらなかった?
どうして皆、あきらめる?どうして皆、怒らない?

契約だから?

それとも。力が足りないから怒れない?俺だって、たいした力があるわけじゃない。

ただ、とにかくここが気に入らないんだ。許せないんだ。

ジャックは。彼なら――。
彼でも?何も出来なかったのか。

深く俯く。
「…、馬鹿だよな、俺」

ただ一つ分かる。
ダンスで世界平和なんて無理だ。

■ ■ ■


祈りの後の夕食は、静かな物だった。
速水は部屋にずっと居る。レオンはノアに引き留められて、戻るに戻れない。
仕方が無いので、カフェテリアで本を読んで時間をつぶした。
カフェテリアの端には幾つかの本がある。ダンスに関する物が多い。

…普段の日曜には皆で軽くカードをしたり、珈琲を飲んだり、雑談をしたりと結構騒がしいのだが、さすがに今日は静かだった。
欠番はよくある事といえばそれまでだが…いきなり二人。
トーマスは若干微妙だったが、レイは最年長者として慕われていた。

「ノア、いい加減、むくれるな」
レオンは言った。
「ふん!ハヤミは最低だ」
ノアはずっと怒っている。
確かに、速水もマズかったと思うが、あの二人にとっては、良い潮時だったのだろう…。
レオンを初め、ここにいる皆、それは分かっている。ノアでさえそうだ。

レイはここで一番の古株だった。特に才能があったわけでも無いが、皆に慕われていた。
この中で、結婚し、子供が出来て、子供は優秀で外へ出て、外からまた孫が入って来て。

…レイの現役時代、ネットワークはまだまともさを残していたらしい。

「神父を呼び、結婚が出来たのがその証拠だ。それが二、三十年ほどで、ここまで悪くなるとは…思わなかった」
レイは時折そう言っていた。

――家に帰る事も無く、ひたすら踊る。

『こんな人生はおかしい』
彼は心のどこかでそう思っていたに違いない。…思わない訳は無い。
レオンだって、ノアだって、皆だってそう思っているのだ。

だがもう慣れてしまったのだ。

「まあ、速水はちょっと変なんだろうな」
レオンは言って、速水を思い出す。

レオンは、『日本ってのは、平和な国じゃなかったのか?』と速水に出会って思った。

―自分以外の人間は、全く信じない―
目を覚ましてからずっと、速水はそういう目をしていた。
レオンは俺達は違う、敵じゃないと主張はしてみたが、こき使われるだけで終わった。

「速水は、NYのカラスみたいな奴だな。それか逞しい野良猫。人間になれないんだ」
「…」
ノアは黙ったままだ。

周囲の空気が変わって、レオンは顔を上げた。

速水がカフェテリアに入って来た。
アメリアが、連れて来たようだった。
速水はホワイトボードの前で帽子を取り。欠番表を見つめ。

「―」
異国の言葉で、厳かに何かを呟いた。
そこにいる誰も、その意味を理解出来なかった。

「冷めないうちに食べよう」
速水はアメリアにそんな事を言った。アメリアは微笑んでキャシーの隣に座り、祈りを捧げ…速水だけがこちらに向かってきた。
ノアと一言も口を利かず、レオンの前にどかっと座る。

「おい。レオン。食べ終わったら、予習に付き合え。こうなったら二週間で7まで終わらせて、あとは交流戦の特訓をする」
彼はそう言った。
「は?」
ツーウィークと言うのは、聞き間違えでないのか?

「ハヤミ、あなた怪我は」
「なんとかする」
ベスの心配を遮り、速水はひたすら食べている。
彼は痣だらけだし、包帯だらけだし、テーピングもして、酷い有様だった。

その速水がふと顔を上げた。
見ているのはレオンで無くて、その隣のノアだ。
「ノア。お前は俺が嫌いかも知れないけど、俺はそうでも無い。暇だったら、予習手伝ってくれ。…出来ればベスも一緒に」

笑うなよ、そこで。

レオンとノアは心底イラッとして、…ベスは少し赤くなった。
すぐにベスはクスクス笑い、いいわよ、じゃあノアも一緒に。と言った。

そう言われて、断れるノアでは無い。
ぶつくさ言いながら、結局、暇だったらね、と呟いた。

■ ■ ■


「…、で、結局こうなるのか。お前、ホント何なんだ?馬鹿か?馬鹿だろ!!」
翌日、23日の月曜日。懲罰室で、レオンはあきれ果てていた。
しかも、音楽の初歩の初歩、座学1を落とすとは。

「…何なんだろうな」
速水はそう言った。
レオンは少し眉を上げた。今までの反応と何かが違う気がする。
どう違うか考える間もなく、すぐにドアが開き、…、ゲテモノが入って来た。

「無理言って変えて貰ったの!!さぁ、====を殺すわよ!!」

なんてルンルンで言われても。
運営は前回で懲りたらしく、速水の後ろに二人、赤い仮面の男を控えさせている。
…どうあっても、速水に死なれては困るらしい。

「今日のペナルティは水責め!!優しいでしょ!!頑張って考えたの!!====!死ね」

ゲテモノが知恵を絞って考えたようだ。が、まだ根に持っているようだった。
運営が速水の後ろに付き、手錠を掛け、ゲテモノが足で速水の頭をでかい水槽に容赦無く沈める。一分ほど。
「がはっ!!」
速水が息を継ぐ間もなく、また沈められる。
それを延々と繰り返した。一見地味だが、本人は苦しいだろう。
かじかじと頭を踏みつけ、時折顔を思いっきり蹴り飛ばす。ゲテモノは乗っている。

レオンはもはや放置されていた。

彼はする事が無いので、部屋の隅に座って待っていた。
「ゴホッ、…」
今日の速水は大変素直だ。抵抗もしない。
彼の肩を抑える運営も心持ちホッとして、嬉しげにさえ見える。
ゲテモノが飽きたら、すぐに終わりそうだった。

しかし。
ゴホッ、げほっ、カハッ。がッ!!

運営に起こされた所をしたたかに、ゲテモノの足で蹴飛ばされた速水の目を、レオンは見てしまった。
口が切れ、頭から血がにじみ。顔は真っ赤の濡れ鼠。しかし。

「…この前は悪かった。俺、あんたにナイフを教わりたい」
はっきりとそう言った。

――ああノア、お前が正しい。俺は馬鹿だ。
こいつはジャック。


レオンはそれを理解した。

〈おわり〉

 

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■次回『第5話 変調』(なろう版)

JACK+ グローバルネットワークへの反抗 (レジェンドチームⅠ) - 第4話 変調 -1/5-

 

お試し掲載では話数を一話ずつカウントすることにしたので旧ブログ版のナンバー、小説家になろう版の話数ナンバリングと違っていきます。

全15話とか言って大いに話数詐欺してたので…ホントは全部で何話あるんだろ??

数えたこと無いんですよね。まあそれは置いておいて。色々、こうだったなぁ。あ、これここにあったの?!まじか序盤じゃ無いか。とか思いつつ読んで頂けると嬉しいです。あと加筆修正が終わって完全版になったら、多分またブログとかで連載しなおしたりすると思います。…暇人だから(^^;) まだわからないけど。

 

こちらからも読めます。

↓ダンスパーティーシリーズ特設サイト(シリーズ略称はダンスパ)

https://www.jack-dance-party.com/

 

 

 

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